ソレは早朝の穏やかなヒトトキ。
本日は快晴なり。




青い空と君と。




澄み通った朝の涼しい空気。
広く、何処までも続く空には、気分屋の白い雲が時折通り過ぎてゆく。

「良い天気っスね〜」
降り注いでくる優しい朝陽を身体一杯に受けながら、アッシュは背伸びをした。

若草色の髪がさらさらと揺れ、石榴石のような赤い瞳がチラチラと覗く。
気分は上々。気持ちも調子も絶好調だ。

彼の足下には、籐で編んだ籠が置かれている。
その中には大きさも、色も形も様々な布の数々。
それらは脱水してあるのにも関わらず、たっぷりと水分を帯びていた。

どうやら彼は洗濯物を干しに来たようだ。
物干し棹の緑が、青空に目に眩しいほどよく映える。

あぁ、本当に・・・なんて良い天気なんだろう。

「さて、やるっスかね〜!」





白いシーツ、Tシャツ、ジーンズ・・・
籠にあるものを次々に棹にかけてゆく。
まるで何処かの熟練の主婦のような、慣れた手つきの作業。

まぁ、アッシュだって、伊達に個性の強いあの二人の身の回りの世話をしているわけじゃないのだが。



大人と子供を彷徨う透明人間のベーシスト・スマイル。

気分屋の飼い主(あれ?違ったかしら?)のボーカリスト・ユーリ。



「全く・・・扱いが難しくて困るっスよ・・・」

彼らの事を思っていると、無意識に軽く優しい笑みが零れ出ていることに、彼は気づいているのだろうか。

いや・・・きっと気づいていないだろう。



「アッシュ〜何笑ってるの〜?」

突然、アッシュの耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。
それと共に、彼の目の前の空間が捻れるように蠢き、ゆっくりとヒトの形を成してゆく。


海底のように深い青を持つ髪、空の色を薄めたような肌、
そしてそれらによって引き立てられている白い包帯。


「スマ!びっくりしたじゃないっスか!出るなら出るってちゃんと言ってくださいっス!!!」
アッシュは洗濯物を抱えたまま声を荒げる。
スマイルは手を挙げ、完全に現れた体を伸ばした。
どうやら起床してから大して時間が経っていないらしい。

「でも、何もないところからいきなり「出るヨ〜」って声がするのも怖いと思うんだけどなぁ」
「それもそうっスけど・・・;;」

フゥ、と軽く溜息をつくと、これ以上付き合っていても埒が明かないと思ったのか
アッシュは再び作業を開始する。
籠の中から洗濯物を出し、綺麗に伸ばしてから棹に掛ける。
単調な、だからこそ時間のかかるその作業。

だが、その作業数分後には再び中断する羽目になる。



「アッシュ〜」

「ねぇアッシュ〜!!」

「聞いてるぅ〜?」

足下に胡座をかいて座り込んでいる彼。
しきりに、オレのことを呼んでいるらしい。

「聞いてるっス!聞いてるっスよ!だから何スかぁ?」
少しうざったそうに彼を見下ろして見る。
「うひゃ!アッくん怖い〜!!!」
「ふざけないで下さいっス!だから何の用があるんスか?オレは仕事があるんスよ!」
「ん〜?用なんてないヨ〜」
「ないならあっち行っててくださいっス」
やっぱりスマの行動は読めないなぁとか思っていると究極の一言が。

「じゃあ、あっち行くからギャンブラーのチョコ買って〜」

出ましたいつもの。

いつもこうやって、オレがスマにお願いすると必ずこう言うんスよ?
ユーリがすると徹底的に断るか素直に引き受けるかのどっちかなんスけど。
あ、でもユーリの場合「お願い」じゃなくて「命令」なのかな。
そんなことはともかく・・・


「・・・」
「ね〜ぇ〜!!素敵主夫アッシュく〜ん」
「スマ、それ嬉しくないっス」
「あ、そう?」


あーもう。
そんな上目遣いでこっち見ないで欲しいっス〜


「わかったっス、買ってあげるから大人しくあっちに行っててくださいね?」

全く、どこの母親っスか?オレ・・・


「やったぁ☆約束だかんネっ!忘れたら怒るヨ〜!!」

はいはい、分かってますってば。
忘れたりなんか、しませんよ。


とりあえずやっかいなのに対応し終わると、今度こそ作業を進めた。


ベッドカバーなんかは普段洗わないから溜まってしまって、こういうときに苦労する。
さらに、この広い城には沢山の客室があるから、城中にあるのを一気に洗おうとすると、
一日中洗濯機を回していても追いつかないという始末。
後回しにしても、誰かがやってくれることなんて無いから、結局は自分でやらなきゃいけない。

それに、私服を洗うのにも一苦労。
ユーリは脱いだ物をその日のうちに出してくれるから助かるが、スマは面倒くさがって3日とか4日とか・・・酷いときは一週間ぐらい出してくれない。
部屋の隅にため込んでいるらしいのだ。
いちいち言いに行かないと、なかなか洗濯に出そうとしない。

さらに、こんなにも大変な仕事をしているのに、誰一人として手伝ってくれようとしないのだ。
手伝ってくれると言えば古くからユーリを慕い、使えている使い魔ぐらいで、
後のメンバーは見て見ぬふりというか、誰が手伝うかとばかりに踏ん反り返ってるか・・・

全く、手間がかかる。
無駄な労力を使っている気がするし、何より非効率的だ。

でも、しょうがない。
悲しいことに、これが超人気ヴィジュアルバンド、Deuilの本当の姿なのだ。



それでも、自分は此処にいる。
この場所に、立場に、役割に不満はない。むしろ、心地よさを感じている。
ああ、適材適所ってこういう事なのかな、と、少し見当違いながらも思ったりする。

それほどに、この場所は心地よい。
最後のパズルのピースをはめ込んだみたいな、そんな感じ。
有るべき場所に還ったと、そんな気にさせるこの感覚。
暖かくて胸のあたりがくすぐったくなるような・・・

思わず笑みが溢れ落ちる。
様々な意味を持った、優しい微笑み。
幸せの象徴。


「なにを微笑っている?」

再び声。しかし今度は背後からだ。

驚き、振り向くと、深紅の羽根を持つ、銀髪の髪をした彼。

「ユーリ・・・」

思わず目を丸くする。
日の出ている時間に外出すること自体が珍しいのに、ユーリがここに来るなんて、本当に珍しいことだったから。
それに、いつもならこの時間はまだベッドの中だ。

「そんなに驚いたか?」
「そりゃ驚くっスよ。こんな時間に起きてるなんて思わなかったから・・・」

昨晩は遅くまで新曲の作詞をしていた気がする。
それなのにどうして?

「たまにはお前に私の顔を拝ませてやっても良いと思ってな」
「何スか、その言い草」

なんて恩着せがましい理由。全くもって彼らしい。

ユーリは手頃な場所を探し、そこに足を組んで座り込んだ。
「先ほど、スマが居たようだな」
「そうっスよ」

対して興味もなさそうにオレの答えを聞いている。
興味ないなら聞かなきゃ良いのにね。


オレは籐の籠に手を突っ込むと、新しい洗濯物を取り出した。
スマの私服だ。
シンプルな柄の施されたTシャツ。意外にこんなのも着るんスよ?
綺麗に皺を伸ばして、緑の棹に掛ける。
空色の洗濯ばさみで服の両端を止める。
これにて終了。
次の衣服は誰のであろうか。再び籠に手を伸ばす。

が、その手が籠に届くことはなかった。

伸ばされていた腕が、捕まれている。
その手を辿っていくと、すぐそこに座っていた筈のユーリが居た。
癖なのか、少しだけ口はつり上げられていて。


「あの・・・ユーリ?」
「お前は・・・」
「・・・?」

「お前は今、幸せか?」

意地悪な表情をしてはいたけれど、その瞳に宿る光は優しくて。
それに安心感の覚えると、軽く身体の力を抜いてアッシュは口を開いた。


「・・・はいっス」


そういうアッシュの表情も穏やかで。
綺麗な、表情をしていた。


少し涼しさを含んだ風が、二人の周りを包みこむ。
綺麗に並べられた白い布達が、一斉に宙を舞う。


それと同時に、緩く微笑むアッシュの唇にユーリが重なる。


それはまるでドラマのワンシーンの様に美しくて、輝いていて。


観る人のないラブシーンは、穏やかにその時を刻んでいた。





end












頂きました!相互祝いユリアス!
「幸せそうなユリアス〜」とリクエストしたところ、
送りつけたモノには見合わない手に余る幸福がやってきました。

何かキラキラしたかんじが幸せです。
なんて言うか私は幸せです。
私にはこの感動をあらわす術がありません(オーイ!!)
とにかくせいんさんに感謝!!

彪奈せいんさんの超癒し系サイトにはリンクページより旅立てます。
  せいんさんのサイトは閉鎖されました。
  お疲れ様でした。そして有難うございました。




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